私情により休む
はっと目覚めた。時計は深夜1時過ぎ。
どうやら寝返りした際に、腫れを圧迫したらしい。
”ロキソニンで腫れも治まるかな。もしも歯根があれならもう抜歯くらいしか手がないだろうな。気休めにアズレン系のうがい薬……”
と考えているうちに眠りに落ちた。
ところが3時過ぎに再び目覚める。
”やれやれ、起動スイッチみたいだな。そのうち起動音でも出るようになるんじゃないか?”
と呆れながら何度か寝たり目覚めたりを繰り返した。おかげで寝覚めは怠かった。ショッカーひとりくらいならば倒せるかも知れないが、心許ない。
今日は事務所でトレーニング用の教材作りでもしようかと思っていたが確実に寝れる自信があった。
「職場のモチベーションに悪影響を及ぼすならば休もう」
僕はそう固く決意した。体調不良という表現も大袈裟だなと思い、
「本日私事により……」
と書いていて、はたと「私情」という言葉も使われていることを思い出した。
「私情」と表現されると、どこかメランコリックで叙情的なものをおっさんの僕は感じる。
ええい、仕事なんてやっていられるか!という開き直りのようにも感じる。
身をくねらせるような想いがそこに込められているようにも感じる。
なんて深い言葉なのだろう。
僕が「私情により休む」と宣言しようものならば、
『嗚呼、u80はどうしてしまったんだろう』と皆が窓の向こうへと視線を遣り、思いに耽るやも知れない。
だから僕はいつもの文面でメールを送信した。
「ロキソニンSとこの解熱鎮痛薬の違いは何ですか?」
「中身は一緒。この解熱鎮痛薬の方が安いよ」
薬剤師の爺さんがハキハキと答えたから勧められるがままに買ってみた。
果たしてこれで治まるだろうか。取り敢えずウォーターピックで洗浄してうがい薬ですっきりしておくか。
などと考えていると、飲み屋の姉ちゃんからお呼び出し。そもそも僕はああいう店には、付き合いで行っているだけで好き好んでいるわけではない。
故にこういうのは億劫極まりない。ましてや今夜は酒など飲める状態ではない。
だから、何も返答しないで僕は昼寝をするのだ。
まあ、器量好しならば膝枕で耳掃除をしてくれてもいいんだよ。