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左から来る

右からは来ません

目指せ甲子園

ある日、おっさんは僕にこんなことを言った。

 

「あいつらを頼むわ」

 

率直なところ、大雑把で虫が良すぎる依頼だなと僕は思った。何故なら彼らと僕はそもそもスキルセットが異なるから、異なる仕事をしている。僕は自営でやっていた一匹オオカミで、たまたま縁があって今の会社に落ち着いている。元々、僕は大した学も無いから鶏口牛後をそのまま体現するしか術がなかったというところだ。そして僕の会社に対する帰属意識たるやおそらく微塵もない。

かといって、なしのつぶてというわけにもいかない。せめて同じ土俵に立てるように学習すべき事を提示した。

 

ところが「無理だ」「出来ない」という声が彼らから上がってきた。やるもやらないも個々人の自由だ。好きにしたら良い。ただし、その結果を甘んじて受け入れることだ。

ふと誰かの言葉を思い出した。

「義務は与えられるものではなく、自らが自身に対して義務を課すものだ」そういう類のことだろうさ。

つっけんどんかも知れないが当時の僕は正直そう思った。元パンク少年だって出来るのだから、基礎から学んだ彼らに出来ぬ訳がない。

 

「当初から僕のチームでもないんですし、当人たちがやらなければ、どうも出来ませんよ。やるのであればいつでも来いとお伝え下さい」

「……そうだな」

 

そんな会話をおっさんとしてから、何年か過ぎた。

彼らが生活に困窮していると耳にするようになった。

周囲は何も変化していないようで、少しずつ変化している。変えないことを選択した結果なのだ。不満を言う前に素振りをしておくべきだったんだ。

じゃあ、僕が年間あたり200万プラスするからそれで何とかしていけよ。という訳にもいかない。

おっさんは働きかけをしていたのだろうか。

彼らは、おっさんの可愛い教え子だったんじゃないのか。

もやもやした気持ちを引き摺って酒を飲みながら、僕が売り上げを年間でいかほど達成すれば、彼ら全員を食わせる事が出来るのか算出した。

どうやら一人で賄えそうにない。それを実現する方法も思い付かなかった。

では何人ならいけるのか……。

いや、当初からそんな義理もない。そんな事をするならば僕が他所へ行くか、日本の経済も堅調に推移しているようだし自営に戻った方が良いのか。幾つもの選択肢が頭の中を過ぎった。

その晩は美味い酒ではなかった。

 

「とりあえず誰か一人、僕の元へ連れてこれるように今すぐ調整してください。あとは自分がケツ持ちますから」

 

翌日、僕はそう切り出した。何故なのかは僕も分からない。

ならばモリという男があの中では適任だろうとおっさんは言った。

だけれども、おっさんはそれからモタモタしていた。

何ヶ月か待った挙句、当初の計画と異なることをおっさんは言い始めた。

 

「ちょっと待ってください。どうしてハラさんなんですか? ハラさんじゃなく、先にモリさんに話をしていた筈です」

「モリはあっちの客の仕事にしようと思ってな」

「彼の今後のキャリア形成を考えると、モリさんがあっちを選択する理由はないと思います。それはモリさんの意思ですか? ないがしろにしていませんか?」

 

人の気持ちを無視して事を運ぼうとする悪い癖が時々出るおっさん。近視眼的に物事を捉え過ぎているからビジョンとかいうものも生まれやしない。おっさんが彼らをきちんと育成していないツケを僕が支払うのも癪だったけれど。

 

「もういいです。まずは二人追加するように僕が調整して、ダメならモリさんのみにしますね。残りはあっちにしましょう。あっちにいったメンバーも目処が立ち次第こっちに。一旦、あっちに配置すれば後々の調整のハードルも下がりますし、あっちへ行った要員も毛色の違うことを吸収出来るため一石二鳥です。ただ、彼らが今やっている仕事のお客さんとの調整は僕がやったら拗れますからお願いしますね」

 

そんなこんなで、らしくもなく「目指せ甲子園」的なことをしている。

こんな状況なのに、あのメールは以前とは異なる国だし何なのだと軽く憤慨している。

 

u80.hatenablog.jp

 

 

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 零細企業の僕らは生々しいことや、しょうもないことと日々格闘している。

一人採用するだけでもナンボ必要で、誰が当面食わせていくのかということを考えなくてはいけないのだ。