左から来る

右からは来ません

温度差と新幹線

「他におかわりが必要な方は?」明らかに体も視線もこちらに。

それは僕に言ってますよね。

はにかみながら茶碗を差し出すu80です。

 

 

わあ! オニーサン! オニーサンだ!

 

 

やけに弾んだ声。知らない誰かに向かって発している言葉だろう。

しかし、もう一度近くで聞こえた。足音は止まった。

 

「オニーサン! 久しぶり! 元気?」

 

聞き覚えがある声。辛口なラーメンの味を思い出した。

 

「あれ? 久しぶりだね。元気よ」

 

僕は声の主へと語り掛けて、彼女の表情を確かめた。

溢れんばかりの笑顔ってきっとこういう顔なんだろう。

 

客が少ない時は、すうっとやって来て僕の向かいの席に油を売りにきたものだ。

そして僕に話し掛けるんだ。他愛ない世間話や近況について。

時にはチラシを広げて見ていたり。

ユルい空気の中華屋の、やけにフレンドリーな姉ちゃん。きっとオバさんになっても、お婆ちゃんになってもそうしているのだろうな。

 

彼女の父親が何軒か飲食店を経営しているらしく、その中華屋はそのひとつだそうだ。

半年程、すっかりその姉ちゃんの事を忘れていた。

おまけに、互いに自己紹介すらしていない。

 

「どこ行くの? 一緒に飲みに行こうよ」

「ごめん、友達と約束あってさ。これから行くところ」

「うん、わかった! またね!」

 

そう言うや否や、手を振りながら彼女は小走りで去っていった。
またね、か。君の名はなんと言うのか。

 

このような時、他者との温度差が気になる。
僕もあの姉ちゃんのように全身で感情表現しないとシツレイに当たるのだろうか。

 

そういえば別の飲食店の女の子もそうだった。

無精髭伸び放題で半年ぶりに食べに行ったら、

 

「わあー、すっごくお髭似合うね! 久しぶり!」

 

と、オーダー以外の会話を初めて振られた。

音信途絶えた友人がふらりと現れたかのような高揚した表情と共に。こんな陽気で気さくな人だったっけか。何が起きたのか。ずっと僕は淡々とオーダーし、ムシャムシャ食べ、すっと帰っていただけだ。その間にお喋りをしていた訳でもなく。このケースは、どこに友情が芽生える要素があったのか。

 

あくまで主観だけれどもこなれている人はこのようなケースで、慎重にアプローチしてくるような気がする。そっと顔を覗き込むようにしながら作りかけの笑顔を浮かべ、

 

「あら? お久しぶりですよね?」 

 

僕の肯定と共にその笑顔は完成される。

こういうアプローチだとこちらも身構えることなく自然に応対出来る。

結局、僕は「ああ」とも「おう」とも聞こえるような曖昧な返事と、半ば反射的にサムアップであの女の子に答えたんだっけ。

 

出張で三島か浜松辺りで新幹線を待っていた際のこと。

走り去るのぞみを見て「ワアオ! シン・カン・セーン!」と叫んでいた青い瞳の男の子。

 

そうか。僕はあの人たちにとっての「のぞみ」だったのだろう。

「ワアオ! オニー・サーン!」「ワアオ! オ・ヒ・ゲー!」てな具合に。

だから僕はいつものように走り去ってゆくべきなのだ。

でも「のぞみ」には遠く及ばない。