読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

左から来る

右からは来ません

最近のちょっとした事故

今週末は一滴も飲んでいないu80です。歓送迎会シーズン真っ只中ですが、飲酒による事故はおっさんでも稀に起こり得るためお気を付けください。

 

飲みに行って、翌朝目覚めると全身汗だくで裸だった。暖房が効き過ぎだ。

見慣れた天井。

これは白川。甘めで華やぐ香り。酔っ払った僕は果たして香を焚いたのだろうか。

そして喉がカラッカラで不愉快この上ない。

 

脇から胸にかけてワサワサしていて重量感と柔らかさ。片腕が痺れている。そして僕の脚に誰かの脚がしっとりと蔦のように絡まっている。

 

……これは。クロじゃないよな。デカい。

 

恐る恐る、手で確かめると誰かの頭があった。もう何年も前にクロは旅立ったんだ。

その日の前の晩、珍しく僕はひどく酔っ払っていて、兎に角全ての意思決定が面倒だった事だけはっきり思い出した。

初めて入った店はひどく混み合っていた。たまたま居合わせた彼女も独りだった。かっぱかっぱと飲みっぷりが良過ぎて、それに付き合ううちに良く分からないけれど、どうにかなってしまっていた。何となく覚えているのは、吉田だか吉岡だかいう同僚に彼女はご立腹のようだった。女同士ってのは面倒臭いのだろうか。

そしてタクシーを拾って帰宅した僕は即座に眠りに落ちて、生来鼻が良くない僕はイビキをこの娘に派手に披露していたに違いない。あれ、いつの間に同乗していたのか。女のそういうところは怖いもんだ。

脱ぎ散らかした下着や衣類が散乱してベッドの周りで絡み合っている。

『あら? なんでこいつも何も着ていない?』

布団から突き出た彼女の頭頂部辺りを暫く眺めていると、湯気のようにぬうっと起き上がってきて互いの鼻と鼻がくっ付きそうだ。互いの汗の匂いがむうっと鼻を刺激した。そして彼女の手が僕の側頭部辺りを撫でた。

 

「うわ、やっぱり触り心地いい。鼻も高い! 手も大きい! どうしたのここ、傷があるね! 縫った? ちょっと松尾芭蕉※1っぽいし」

 

彼女は矢継ぎ早に言葉を発し、ハムスターか珍しい動物にでも触ったかのように嬉々としていた。ひょっとすると沈黙が気まずくて、このように振舞っているのか。

 

「何か飲む? ……といってもコーヒーか紅茶か水しか選択肢がないんだけど。あとはプロテインか」

 

「お兄さん、あの箱、お香だよね? めっちゃいい匂いだったから使ってみた! あの上着からも同じ匂いしたよ」

 

すんなりと犯人は自白した。そして互いに名を知らない事も。「お兄さん」というワードが自然に出てくる彼女の生業も気になったものの、僕の望む答えじゃなかった。喉の渇きを解消することが第一だからだ。

 

プロテインって美味しい? ……最初から思ったんだけどこの体、何これ凄くない? これも。難しそうな本一杯だし、インテリヤクザ? 何者? 洗面所に剣山いっぱい積んであるし、床にあるあれ、かなり重いし」

そのインテリヤクザは小娘にひとしきり胸を揉まれた。僕は僕に懐いていた猫が偉そうに胸に乗っかっている様を再び思い起こした。

インテリヤクザはないだろうし、そう名乗る本職も居ないだろう。軽い質問責め。この場合仕方がないだろうと僕は思った。

 

「落ち着け。普通のサラリーマンさ。プロテインはバニラ系の味だけど、美味いかどうかは……」

 

するとゲラゲラと笑い出した。僕は楽しい小噺なんてしちゃいない。彼女が言うには、このような状況で至極普通で淡々と受け答えをしているのがツボだったらしい。

 

心配は要りません。名すら覚束ない人に頭を撫でられる事は、バンドマン時代からしばしばあることです。

いや、どちらかと言えば好みでしたが何にもしていないはずです。

うん。まあどちらも独身なので多分問題はないです。

 

※1:何と言ったのか覚えていない。

お題「誰にも信じてもらえない体験」